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「私は私。そのままを受け止めてくれるか、さもなければ放っといて。」‐ロザリオ・モラレス‐                                                                                                                            しょーもない女のだらだらとした日々。人肌程の心地よい生暖かさで見守って頂ければ幸せ。
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不思議の国のアリス

イギリスの数学者にして作家チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンが、ルイス・キャロルの筆名で1865年に出版した児童文学。他愛のない童話の様で、実は超現実主義的な想像力に表付けられた幻想を含み、ノンセンス文学の最大の技法である言葉遊び、特に地口を多く駆使した作品。言葉を作っている意味と音を引き剥がし、音に優位を与え、意味を脱臼させると云う地口の手法が読者を意味論的な目眩に陥れ、奇妙な半世界を現出させている。
キャロルが友人のロビンソン・ダックワースと三人の少女、ロリーナ・シャーロット・リデル、アリス・プレザンス・リデル、イーディス・メアリ・リデルと一緒にテムズ川をボートで遡っていた時に即興で少女達に語って聞かせた物語が元で、主人公のアリス自体も其の少女の一人であり彼の御気に入りのアリス・リデルがモデルとなっている。
                               (参考資料:「ブリタニカ」等)


ノンセンス文学―
 読者の既成の秩序や価値の「感覚」をはぐらかしたり、突き崩したり、逆転させる事を
 狙った文学。「幻想」や「グロテスク」と重なる所も有るが、笑いとは切り離せない所が
 相違点。然しその笑いも「ユーモア」とは違って乾いた物である。
地口―

 しゃれの一種、語呂合わせ、1つの語句に2つ以上の意味を持たせたり、同一、または
 類似の音の語句を用いて違った意味を表せたりする言葉遊び。


■少女いじめとイニテーション

物語を要約すれば、「不思議の国のアリス」は徹底的な“少女いじめ”の繰り返しである事が判る。最初にアリスに与えられる苦痛は意味も判らず大きくなったり縮んだりと云う身体的な物だが、そんな身体的方法が子供のアイデンティティを揺さぶり不安にさせるには一番有効なのである。次いで終始与えられるのは言葉と論理の歪曲。アリスが出会う人物や動物は例外無く奇妙奇天烈な話し方をし、彼女は煙に巻かれ、満ち足りた意思疎通の喜びを味わう事を一度も許されない。チェシャ猫やウミガメもどきの様に悪意の無い者も少数居るが(彼らとて心優しい訳ではない)大体は意地悪揃いで、中でも特に残酷なのはキチガイお茶会トリオであろう。答えのない謎々ですっぽかされ、「云ったこと」と「意味したこと」の差異について突っ込まれ、ちょっと語尾を濁せば「自信がないものは話すべからず」と叱られる――此は殆ど言語暴力だ。作者、モデル、作品の単純な関係図に即して云えば、チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンことルイス・キャロルが愛する少女、アリス・リデルへの気持ちをこの様な形で書いた(書けなかった)事は驚きである。

童話とは総て「無垢」が「経験」に晒される(「不思議の国のアリス」の場合、アリスが不思議の国の冒険を経験する)イニシエーションの物語であり、そこに残酷な「いじめ」の要素が常に内包されていると云える。とすれば、ルイス・キャロルがアリス・リデルに与えたイニシエーションの特異さが問題にされるべきなのである。ただし、物語中のアリスは嫌がってばかりでいる訳ではなく、「ますますヘンテコリン」になっていく状況を半ば愉しんでもいるし、やられっぱななしでもない。悪夢の果ての裁判の場では身体が元の大きさに戻った彼女が異論理の世界に対して「ナンセンス!」の一語を投げつけて、其れを消滅させる。此はセンス(分別)を会得した印である。
作者は独特な愛と幻想を込めて心ゆく迄少女を「嬲った」挙げ句、無事にイニシエーションを生き延びさせたのだ。
                          (参考資料:「世界文学101物語」)



■多用な言葉遊び

「はじめは、這い方と悶え方からでした」
「次は算数の四則です。野心、動揺、醜怪、愚弄」

「他には、何を習ってたんですか?」
「そうですね、謎がありました」
「古代の謎と現代の謎に、海洋学、それから話術……
 話術の先生はお年寄りのアナゴで、一週間に一度来ていらっしゃいました。
 この先生は僕たちに、話術と体の伸ばし方と、
 とぐろを巻いて気絶するやり方を教えてくださいました」
            [ 不思議の国のアリス:9章 ]


這い方(Reeling) - 読み方(Reading)
悶え方(Writhing) ‐ 書き方(Writing)
野心(Ambition) ‐ 足し算(Addition)
動揺(Distraction) ‐ 引き算(Subtraction)
醜怪(Uglification) ‐ 掛け算(Multiplication)
愚弄(Derision) ‐ 割り算 (Division)
謎(Mystery) - 歴史(History)
海洋学(Seaography) - 地理(Geography)
話術(Drawling) - 絵画(Drawing)
体の伸ばし方(Stretching) - 写生(Sketching)
とぐろを巻いて気絶するやり方(Fainting in Coils) - 油彩(Painting in Oils)


「カラスが書き物机に似ているのはなぜか?」
            [ 不思議の国のアリス:7章 ]


「なぜならば、どちらも少しばかりの“note”(鳴き声/覚え書)が出せますが、
 非常に“flat”(平板/退屈)なものです。
 そして、どちらも前と後を間違えることは決して(nevar)ありません!」

帽子屋の有名な“答えの無い謎々”にキャロルは解答を与える意図は持っていなかったが、1896年版の『アリス』の序文では上記の解答を提示している。因みに解答中の“nevar”はraven(カラス)の逆さ読みなのだが、後の版で“never”に綴りが修正された為に彼の仕込んだ駄洒落は失われてしまった。
此の謎々に、パズル作家のサム・ロイドは以下の解答を提示している。

「なぜならば、
 どちらで出される“note”も“musical notes”(旋律/音符)ではない」
「どちらも“bill”(嘴/勘定書)と“tale”(尻尾/物語)をその特性として含んでいる」
                   (参考資料:フリー百科事典『ウィキペディア』)


■不思議の国の住人概要

チェシャ猫 -
英語の慣用句「チェシャーの猫の様ににやにや笑う」を擬人化したキャラクター。
(この慣用句の語源にはいくつかの説があり、
 [1]酪農が盛んなチェシャー地方には有名なチェシャー・チーズをはじめ、
   酪農製品が豊富にあり、ミルクやクリームが好きな猫はついニコニコする為
 [2]チェシャー・チーズに集まってくるネズミを捕まえてご満悦である為
 [3]チェシャー・チーズが猫の形に作られていた為
 などが挙げられる。)

三月ウサギ -
英語の慣用句「三月のウサギのように気が狂っている」を擬人化したキャラクター。
(三月は野うさぎの発情期の始まりで、気が違ったように見えるという)

帽子屋 -
英語の慣用句「帽子屋のように気が狂っている」を擬人化したキャラクター。
(当時の帽子屋はフェルトの加工に水銀を使用しており、その影響によるものという)
彼は一般にはいかれ帽子屋の呼び名で知られているが、原書の中で彼がこの名で呼ばれる場面は存在しない。帽子屋が最初に登場する章「気違いのお茶会」もしばしば誤まって「いかれ帽子屋のお茶会」と呼ばれるが、実際はこのお茶会は三月ウサギの庭園で催されている。
帽子屋の帽子に添えられた「10/6」というカードは、10シリング6ペンスの意味であり当時のイギリスの通貨による彼の帽子の値段。日本円に直すと約5万7千円になる。

ヤマネ -
英語でヤマネは語源的に「眠るネズミ」の意味。(冬眠が長いため)
またフランス語で“dormeuse”は「よく眠る人」の意味。



(帽子屋、三月ウサギは『不思議の国』の続編『鏡の国のアリス』でも、白の王様の伝令のハッタ(Hatta)とヘイヤ(Haigha)として現れる。)
                   (参考資料:フリー百科事典『ウィキペディア』)


■ルイス・キャロルとアリス・リデル

アリスとキャロルの出会いは1856年4月末のこと。
ルイス・キャロルがオックスフォード大学で数学の講師をしていた時、キャロルは友人と学寮長宅に出掛けた。その庭で遊んでいたのが学寮長の娘、アリス・リデル達三姉妹だったのである。(当時のアリスは4歳)キャロルは其れから学寮長宅に足しげく通い、三姉妹たちをよくボート遊びに誘ったと云う。


ルイス・キャロル ‐
イングランド北西部チェシャー州ダーズベリ出身のイギリスの数学者、論理学者、写真家、作家、詩人。本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン。
キャロルは聖職者の資格を得ながら、内気な性格と吃音の為に説教壇には立たず、写真を子供を愛しながら一生独身を守った。ビクトリア朝の代表的奇人である。

少女への飽く事なき関心や、多くの「子供友達」の存在、オスカー・ギュスターヴ・レイランダーによる初期の児童写真の蒐集、少女俳優制度の改革以前のロンドン劇場への愛着、少女のヌード写真やセミヌード写真あるいはスケッチといったキャロルの作品に関わる心理分析は、キャロルが少女愛者だったとの憶測を呼び起こしている。ドジソン少女愛者説の一つとして伝えられている、キャロルが13歳のアリス・リデルに求婚したという逸話も有るが其れを否定する研究者も少なくはない。
「キャロルは一種のピーター・パンだった」

アリス・リデル ‐
王室の血を引く上流階級に誕生、 父親はオックスフォードのクライスト・チャーチ・カレッジの学生監ヘンリー・リデル。そして、『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』の主人公アリスのモデルの少女である。
一般的にアリスはいかにもヨーロッパ風の金髪碧眼、ロングヘアのイメージが強いが実際の彼女は黒髪のボブへアに彫りの深いオリエンタルな顔立ちだった。
前者のイメージが生まれた最大の理由は『不思議の国のアリス』の挿絵を担当したジョン・テニエルの挿絵。モデルのアリスとの相違の為か、当初ルイス・キャロルは初期の挿絵を不満に感じていたらしい。



(アリス・リデルは主人公として出演して居るが、アリス同様にテムズ川をボートで遡っていた他の3人も3章にてロビンソン・ダックワースはあひる(Duck)、ロリーナ・リデルはインコ(Lory)、イーディス・リデルはワシの子(Eaglet)としてそれぞれ戯画化されて登場。因みにルイスキャロル、チャールズ・ドジソン自体もドードー鳥(Dodo)として登場している。)
                        (参考資料:フリー百科事典『ウィキペディア』
                        「ブリタニカ」
                        「♥. ♦不思議の国のアリスの部屋♠. ♣」)

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